日本の温泉場では、お風呂に浸かることしか提供しないところが多いのですが、入浴以外にも吸入、洗浄、飲泉などにも素晴らしい効果があるのです。
志楽の湯のような食塩泉を例にとると、まず吸入することで、鼻の通りがよくなり繊毛運動が活発になるので、副鼻腔炎に効果があります。ミストにして吸うと、肺の奥まで行き渡るので、痰が切れたりして一層効果的です。さらにうがいをすると食塩泉の殺菌作用により、喉や気道の炎症を和らげる効果があります。また飲泉すると、胃酸の分泌を整え、腸の運動を活発にすることから「胃腸の湯」とも言われるほどです。
お湯に浸かると浮力が生じます。首まで浸かる全身浴では、体重が空気中の9分の1から10分の1ほどになります。この浮力を利用して、身体のために良いことがいろいろできるのです。ただ浮いているだけでも、かなりリラックスできます。歩くとさらに良いのです。水中で歩くと抵抗があり、エネルギーをたくさん使うので、よい運動になります。
空気中で運動するよりも水中で運動する方が安定してできるうえ、筋肉や関節なども柔らかくなります。20分ぐらい水中を歩くと、椎間板のやわらかい組織がふやけてくるので、身長が0.5~1cmくらい伸びることもあるほどです。腰痛や高齢者の介護予防、リハビリにとても良いのですが、日本の温泉病院では、
こうしたノウハウをほとんど持っていないのが残念
です。メタボ対策としても、歩行浴ができるようなところが望まれますが、日本の温泉場では、なかなか見られません。ヨーロッパでは普通なのですが。
また、積極的に身体を動かせない場合は、ジャグジーバスでバイブレーションや泡などの刺激によるマッサージを身体に与えましょう。音熱効果がますます上がり、体温がさらに上がります。免疫力が強まり、眠りが深くなります。海水のような濃度の濃い温泉で動水圧をかけると一層効果的です。
さらに、リラックスする、ストレスが和らぐ、などの効果が脳波にあらわれます。ある老人福祉施設で、お年寄りに動水圧付きの温泉浴を1日1回20分ずつ、2週間続けてもらったところ、初期のアルツハイマー傾向の脳波が正常になったという実験データもあるほどです。
こうした温泉療法で、将来、軽度の認知症予防が可能になるのではと、期待を寄せているところです。介護施設などで、アルツハイマー症状の進行を留めることに役立てることができるかも知れません。
温泉を有効に利用し、その癒し効果と共に食事や、運動と組み合わせて、楽しみながら上手に行うのが、広い意味での温泉療法といえます。
ヨーロッパでは古くから、大体3週間程度、温泉場に中長期滞在して温泉療法を行う習慣が定着しています。こうした中長期滞在型の温泉保養地を、ヨーロッパでは温泉型のヘルスリゾートと言います。
積極的な健康づくりには、休養と運動と栄養が大切です。宿泊施設があって、この3つをバランスよく同時にできるのがヘルスリゾート、健康保養地です。そして、このヘルスリゾートで実際に行うのがヘルスリゾートメディスン、健康保養地療法と言います。この中で一番中核になるのが温泉です。一般に言われる温泉療法とは、天然ガスや泥も含めて広い意味での温泉と、温泉地の気候、海、山、高原といった土地の風土を利用して病気の治療、リハビリ、健康づくりを行う自然療法を言います。ヨーロッパではあたりまえですが、日本ではまだモデルがありません。
休養の極致は露天風呂です。川のせせらぎ、森からのフィトンチッドの香りなど、効用がいろいろあります。その点、露天風呂に恵まれている日本は最高のメリット持っていると言えます。
どこの温泉地に行ってもなかなか運動する所がないのですが、基本は温泉プールで水中運動することです。スポーツジムに比べて、お湯の中だとリラックッスできて、大勢の人々が楽しく運動できます。これからの介護予防では、転倒防止が特に大切になります。そのためには、お湯の中で水中運動をするのが一番です。筋力アップになり、濃度の濃い温泉だと一層効果が出てきます。骨粗しょう症なども、温泉を」楽しみつつ、外に出て陽に当って海水浴や森林浴することによって、ビタミンDの合成を促し、しかも歩くのがよい運動になって、ずいぶん改善されます。
ヘルスリゾートメディスンは、現代的な治療法の中に、統合、代替、伝統療法を取り入れたものです。なるべく薬を使わない自然療法として、温泉があったり、森林浴があったり、海があったり、気候療法があるのです。アロマセラピーとして薬草や植物も積極的に使います。また、気功や漢方なども使います。こうしたことが総合的にできる場所が必要になります。
例えば、温泉保養公園、コミュニティセンターを兼ねたクアハウス、サウナ、医者が常駐して治療、リハビリなどを行う所、温泉の特徴によってはサナトリウムやリハビリセンター、リウマチ専門の病院、飲泉場などもあります。これらが一つの単位となって、いわゆる温泉保養地、ヘルスリゾートと呼ぶのです。ドイツなどでは、こういうものが揃わなければ温泉地とはいわないほどです。これらは最低限なければならないもので、5年に1回行政のチェックが入ります。
これからの日本の温泉地は、自然を大切にするのはもちろんのこと、健康づくり、介護予防に水中運動を積極的に取り入れることが望まれます。お年寄りになると家から出たがらない人が多くなりますが、シャトルバスなどで温泉場に連れ出し、交流の場にするのです。そしてプールで水中運動をする。いやならお風呂に浸かるだけでもよいでしょう。そして、自治体が保健師などとタイアップして健康診断だとか健康相談や指導をするのです。つまり、病院、デイケアセンターや介護施設と温泉を結びつけるわけです。
私は、内科、糖尿病が専門ですが、なるべく薬を使わないで、規則正しい生活と食事療法に加え、温泉や山登り、森林浴や海岸を歩くなどを最低4週間~6週間続けると、血糖値の改善効果が現れてきます。
また、ストレス関連性疾患、心身の疲れ、軽いうつなどは、温泉に入るだけでも治るほどです。特に食塩泉、炭酸泉、硫化水素泉などは、早く疲れをとる効果があります。長期滞在型の温泉療法は、うつや少し症状の進んだストレス関連性疾患にちょうどいいのです。ただし、海辺で単調な波の音を聞いていたり、あまりにも静かな所でぼーとしていると、かえって沈み込んでしまう場合もあり、うつの症状が強くなってしまうおそれがあるので、注意が必要です。
そうした症状の場合は、標高1,000メートルを越えるくらいの高原にある温泉にいくと、ほどよい寒さや気圧の刺激が自立神経系にマイルドな刺激となって回復に向います。こうした心療内科的なアプローチもかなり行われています。さらに、森から発散される物質が心身に非常によいので、森林浴と組み合わせると一層効果的です。そして、疲れたら温泉に入ってじっくり温まる、それを繰り返し続けるとよいのです。
温泉療法を普及していくためにも、温泉場に中長期滞在しても飽きないように工夫することが望まれます。これがひいては、ヘルスツーリズムやエコツーリズムなど国際的な面での保養地を目指す、というようなふうになればよいと思います。
志楽ニューズレター 第十四号 2011年3月5日発行
企画:グループダイナミックス研究所
発行所:志楽ダイナミックス