昨年12月3日(金)午後2時より川崎生涯研修センターにて、志楽健康セミナーが開催されました。講師に健康保養地医学研究所の阿岸祐幸氏をお迎えし、温泉の効用、温泉の効果的な入り方、温泉療法などについて幅広く語っていただきました。
その概要を2回に分けて紹介します。1回目の今回は「温泉の効用と効果的な入り方」です。
阿岸祐幸(あぎし ゆうこう)
1931年札幌市生まれ。北海道大学大学院医学研究科修了。健康保養地医学研究所所長。北海道大学名誉教授。医学博士。著書に「温泉と健康」「気候療法入門-山歩きにはちょっと冷たい刺激」など多数。
温泉とは、地中から湧き出る水、水蒸気、炭酸ガス、ラドンなどで、①泉源での温度が摂氏25度以上あるか、②鉄とか炭酸ガスなど特定の19種類の物質のどれか一つでも規定の量以上含まれているか、いずれかの条件を一つでも満たすことと、温泉法で定められています。さらに、温泉のうち、症状や病気に効果が期待できるものを「療養泉」といい、その主成分から9種類に分けられています(別表参照)。
例えば、志楽の湯の泉質はナトリウム塩化物泉、通称食塩泉ともいいますが、鉄分やヨウ素、メタケイ酸なども多く、とても特徴的な温泉です。
●単純温泉
成分はいろいろあるが、塩分濃度が規定値以下と薄く、泉源の温度が25度以上の温泉。刺激が弱く、作用も穏やかで入りやすく万人向き。高齢者、病後の回復期の静養、手術や外傷後の療養などによい。飲泉は軽い胃腸炎によい。
●ナトリウム塩化物泉(通称・食塩泉)
皮膚に付いた食塩が体温の放散を妨げて、保温効果が長く続くので、「熱の湯」と言われている。食塩泉や海水は殺菌作用が強く、咽頭や上気道の炎症にうがいや吸入が効果的。アトピー性皮膚炎によく合併する皮膚感染症に効果がある。関節痛、筋肉痛などにも効果的。飲むと、胃酸の分泌を整え、腸の運動を活発にするので「胃腸の湯」とも言われる。
●炭酸水素塩泉(ナトリウム炭酸水素塩泉は通称・重曹泉、アルカリ泉)
重曹は皮膚表面の脂肪や分泌物を乳化して軟らかくし、肌を滑らかにするので、「美人(肌)の湯」と言われる。浴後に皮膚表面からの水分発散が盛んになって、体温放散が強まり、清涼感、爽快感があり、「冷えの湯」とも言われる。浴用の適応は外傷、皮膚病、リウマチ性疾患など。
飲用すると、胃酸を中和し、発生した炭酸ガスは粘液を溶かし、胃の運動を促進する。胆汁の分泌を促し、肝臓、すい臓の働きを助けるので、ドイツでは「肝臓の湯」として、胆石、慢性胆嚢炎、糖尿病、通風に用いられる。
●硫酸塩泉
ナトリウム硫酸塩泉(ほう硝泉)、カルシウム硫酸磯泉(石膏泉)、マグネシウム硫酸塩泉(正苦味泉)、アルミニウム(明礬泉)があるが、いずれも保温効果が強く、末梢血管を拡張し、血圧を下げる作用もある。
●二酸化炭素泉(炭酸泉)
炭酸ガスの小気泡が肌につく泡が特徴的。末梢血管拡張と血流増加作用が強く、炭酸ガスの濃度が高いほど強くなることが確かめられている。心臓に負担をかけずに血液循環を促進し、「心臓の湯」とも言われる。飲用で胃腸の働きを促す。
●硫黄泉
末梢血管拡張作用が強く、動脈硬化症、高血圧症、慢性皮膚病、皮膚角化症に適する。硫化水素ガスは痰を切るので、慢性気管支炎、気管支拡張症に良い。乾燥肌の人には向かない。
●酸性泉
強い刺激作用がある。抗菌作用を利用して皮膚感染症に適する。皮膚のただれ、湯あたりを起こしやすい。
●放射能泉
鎮痛効果があり、末梢循環を促進する。飲用で利尿作用があり、通風、高尿酸血症、慢性尿路感染症などに適する。
日本人の多くは、入浴する時、あまり動いたりせず、じっとして、かがんで首まで浸かり、手足を伸ばしたり、膝をまげたりするのが基本姿勢のようです。立位で首まで浸かると、560kgくらいの水圧がかかります。これにより、心臓や血管系に大きな影響を及ぼします。そこで、高血圧や心臓疾患が進んでいる人は半身浴がよいとされています。
とはいっても、温泉や薬湯に浸かるときは、誰もが首まで浸かりたいと思いますし、できるだけ、皮膚の表面積が広く浸かった方が効果的です。おへその下までだと50%。首までつかると85%。せっかく温泉や薬湯に入るときは、できるだけ全身浴した方が有益なのです。
そこで、お勧めなのが寝浴です。水圧がかからないようにするには浅くすれよいわけですから、寝そべるような姿勢で入浴するのです。これならば、心臓に負担をかけずに全身浴ができます。全身浴の寝浴で脳波や筋肉もリラックスします。居心地のよい人間工学的に考えられた浴槽があれば、なおさらです。
もっとも、どこにも異常がない健康な人は、半身浴にこだわる必要はありません。むしろ、出たり入ったりすることで、血液の流れ、すなわち心臓の自律神経系のトレーニングにもなるので、全身浴の方が好ましいと思います。また、長時間入浴していると、おしっこがしたくなります。これは、心臓の中の余分な水分を体外に出そうとする働きによるもので。水浴性利尿といいます。これも、腎臓の機能が正常ならば、水分を排出するいいトレーニングになるのです。
入浴で一番気をつけなければならないのは温度です。もともと加齢により温度に対する感受性は下がってきます。同じ熱さの風呂に浸かっても、年をとると熱く感じなくなります。これがトラブルのもとになるのです。熱く感じないのに、身体の内部は交感神経系が非常に興奮して、血圧が急に上がり、新陳代謝が活発になります。不整脈が出たり、いろいろな悪影響が出てきます。特に42度以上の高温浴は危険です。
熱い風呂に全身浴で浸かっていると、次第に慣れてきますが、立ち上がったとたん急に血流が下半身の方に下がって脳貧血を起こしてしまいます。脱衣室が寒いと再び血圧がうんと上がります。この温度差も要注意です。
また、高温だと汗が多量に出ます。すると血管の中の水分が少なくなり、血液が粘っこくなり、サラサラでなくなります。42度以上になると、血栓ができやすく、脳や心臓に梗塞が起きやすくなるのです。
お風呂で亡くなる人の数は、42度以上で急に増加します。11月~12月、1月~2月の冬季に多くなります。65歳以上は、交通事故よりもお風呂で亡くなる方が多いほどです。
また、サウナの後に冷水に入るのも身体には良くありません。血管が拡がって汗が出て温まった後に冷たい水に入ると、水圧がかかるのと寒冷刺激によってダブル・トリプルで血管系・特に心臓系・腎機能、交感神経系に悪影響を与えます。特に高齢者には最悪です。
40~45度の低温サウナでも湿度が100%だと、余り強くない刺激で汗は十分出ます。高齢者や女性にとって、サウナとして望ましいのは45度前後くらいの湿式サウナです。これが一番安全だといえるでしょう。さらにメントールやローズマリーなどアロマを加えることによってリラックス効果も出ます。
どうしてもさっぱり感を味わいたければ、サウナ後に28~30度のシャワーを浴びるだけでもよいのです。シャワーをかけながら足首、ひざから下くらいを冷たい水に入れれば、水圧が全身にあまりかからないので、心臓や交感神経系にあまり無理をかけずに、汗を止めることができます。
運動・食事・飲酒の直後の入浴は避け、できるだけ、42度以上は避けて37~41度のぬるい湯に入りましょう。浴室とお湯の温度の差を少なくし、浴槽に入る前にあらかじめ掛け湯をして血管を広げておくのが大事です。そして、滑って転倒などしないように、「這うように入り、這うように出る」ことを心掛けましょう。
また、入浴中は1時間あたり400~600ccの発汗量があるので、入浴の前後に十分な水分補給をすることが不可欠です。前に200~300、出てから300~400の水分を摂りましょう。できればスポーツドリンクや新鮮なみかんなど柑橘類のジュースなどがよいでしょう。
あまり長湯はせず、お風呂に浸かっている入浴時間は延べ10~20分を目処にしましょう。ただ、時間については個人差がありますから、そのときの体調によって、どれくらいの時間が自分自身にとって安全でリラックス度が高い入浴時間なのかを体験的に憶えておけばよいと思います。
(次号に続く)
志楽ニューズレター 第十三号 2011年2月5日発行
企画:グループダイナミックス研究所
発行所:志楽ダイナミックス